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【法的対応】個人情報流出で損害賠償請求は可能か?要件と手続きの基本

Tags: 個人情報流出, 損害賠償, 法的対応, 個人情報保護法, 民法

個人情報流出による損害賠償請求の可能性

インターネットサービスを利用している中で、登録した個人情報がサービス提供者からの流出によって漏洩してしまうというリスクはゼロではありません。万が一、個人情報が流出した場合、様々な二次被害(不正利用、なりすまし、詐欺メールなど)に遭う可能性があり、精神的な負担も大きくなります。

このような状況で、「流出元に対して損害賠償を請求できるのだろうか?」と考える方もいらっしゃるでしょう。結論から申し上げますと、個人情報流出を原因とする損害賠償請求が認められるケースは存在します。しかし、請求が認められるためには特定の要件を満たす必要があり、その手続きも容易ではありません。

この記事では、個人情報が流出した際に損害賠償請求が可能となる基本的な考え方、請求が認められるための主な要件、そしてその手続きの概要について解説します。法的な側面に焦点を当てますが、専門的な法律知識がない方にも分かりやすいように、基本的な部分を丁寧にご説明いたします。

個人情報流出と損害賠償請求の法的根拠

個人情報が流出したことに対する損害賠償請求は、主に民法上の「不法行為」または契約(サービス利用規約など)上の「債務不履行」を根拠とすることが考えられます。

また、個人情報保護法も企業に対して個人情報の適切な管理義務を課しています。この義務違反が、上記の不法行為や債務不履行の根拠となることがあります。

損害賠償請求が認められるための主な要件

個人情報流出を理由に損害賠償請求を行う場合、一般的に以下の要件を満たす必要があります。

  1. 加害者の故意または過失: 情報を流出させた企業や組織に、個人情報管理上の「故意」(意図的に情報を漏洩させた)または「過失」(本来負うべき注意義務を怠った)があったこと。多くのケースでは、適切なセキュリティ対策を講じていなかったなどの「過失」が争点となります。適切な対策を講じていたにも関わらず、予見不可能な第三者による攻撃などにより流出してしまった場合は、過失が認められない可能性もあります。
  2. 損害の発生: 個人情報の流出によって、請求者(被害者)に何らかの損害が発生したこと。損害には、クレジットカードの不正利用による金銭的な被害(財産的損害)だけでなく、情報流出による精神的な苦痛(精神的損害、慰謝料)も含まれると考えられています。
  3. 因果関係: 発生した損害が、個人情報流出(加害者の故意または過失)によって引き起こされたものであること。例えば、流出したメールアドレスにフィッシングメールが届き、それに騙されて金銭を失った場合、流出と金銭的損害の間に因果関係があると主張できます。流出そのものによる精神的苦痛も、一般的に因果関係が認められやすい損害です。

これらの要件、特に「加害者の過失」と「損害との因果関係」を証明することが、損害賠償請求において重要となります。

損害の種類

個人情報流出によって発生しうる損害には、主に以下の種類があります。

損害賠償請求の基本的な流れ

個人情報流出を原因とする損害賠償請求を検討する場合の、一般的な流れは以下のようになります。

  1. 情報収集と証拠の保全:
    • 流出元からの通知内容を詳しく確認します。いつ、どのような情報が、どのように流出したのか、原因は何なのかなどを把握します。
    • 流出後に発生した二次被害(フィッシングメール、不正ログイン通知、不審な請求など)に関する証拠(メール、画面キャプチャ、利用明細など)を可能な限り収集し、保存しておきます。
    • 流出元企業の対応状況(再発防止策など)に関する情報も集めておくと良いでしょう。
  2. 流出元企業との交渉:
    • まずは流出元企業に対して、情報流出に関する説明を求めるとともに、損害賠償請求を検討している旨を伝えます。企業によっては、個別の状況に応じて一定の補償に応じるケースもあります。
    • この段階での交渉で解決することもあれば、企業側が請求に応じない場合もあります。
  3. 専門家への相談:
    • 企業との交渉が進まない場合や、法的な手続きを検討する場合は、弁護士などの専門家に相談することを強く推奨します。個人情報保護法や民法に詳しい弁護士であれば、ご自身のケースで損害賠償請求が可能か、どの程度の金額が認められる可能性があるか、どのような証拠が必要かなどについて具体的なアドバイスを得られます。
    • 弁護士に依頼する場合、相談費用や着手金、成功報酬などが発生しますので、事前に確認が必要です。
  4. ADR(裁判外紛争解決手続き)の利用:
    • 裁判によらずに当事者間の和解を仲介する制度です。弁護士会や国民生活センターなどで利用できる場合があります。裁判よりも迅速かつ非公開で解決を図れるメリットがありますが、相手方が手続きに応じる必要があります。
  5. 訴訟提起:
    • 企業との交渉やADRでの解決が難しい場合、裁判所に訴訟を提起するという選択肢があります。訴訟では、原告(請求者)が損害賠償請求の要件を満たすこと(企業の過失、損害、因果関係など)を証拠に基づいて主張・立証する必要があります。
    • 訴訟は時間と費用がかかる手続きであり、専門家(弁護士)の協力が不可欠となることがほとんどです。

請求を検討する上での注意点

損害賠償請求を検討する際には、以下の点に注意が必要です。

まとめ

個人情報が流出した場合、流出させた企業に対して損害賠償請求ができる可能性があります。主な法的根拠は民法上の不法行為や債務不履行であり、請求が認められるためには企業の過失、損害の発生、およびその間の因果関係を証明する必要があります。損害には財産的損害と精神的損害(慰謝料)が含まれます。

請求を検討する場合は、まず流出通知の内容や発生した二次被害に関する情報・証拠を収集し、流出元企業と話し合いを試みることが第一歩です。解決が難しい場合や法的な手続きに進む際には、弁護士などの専門家に相談することを強く推奨します。損害賠償請求は容易な道のりではない場合が多いですが、ご自身の権利を守るためにも、まずは情報収集と専門家への相談から始めてみるのが良いでしょう。